
仁和会理事長の松屋です。子育ては、想像以上に笑いがあって、想像以上に悩みも多いもの。このコラムでは、保育現場や家庭での日常から感じたこと、役立つ情報、ちょっとした気づきをお届けします。「今日もお友達を噛んでしまった…」保育園のお迎えでそう聞くと、本当に申し訳ない気持ちになりますよね。「どうして噛むんだろう」とショックを受け、悩む親御さんは非常に多いです。自分を責めて、悲しくなるママやパパもたくさんいらっしゃいます。我が子が誰かを傷つけてしまうと、胸が少し苦しくなりますよね。
でも、噛みつきは成長の過程で起こることです。決して、しつけが悪いわけではありません。愛情不足でもないです。言葉がまだ未熟な時期に、自然と現れるものなんです。この記事では、噛みつく原因やその心理を解説します。そして、家庭でできる優しい対応方法も紹介します。親御さんの心の負担が少しでも軽くなりますように。どうぞ、リラックスして読んでくださいね。
【この記事の目次】
1〜2歳頃に多い子どもの「噛む」行動!その心理と発達の関係

自分の気持ちを言葉にするのが難しい時期
子どもの噛みつきが多く見られるのは、主に1歳から2歳頃です。この時期は自我が急速に発達します。「自分でやりたい!」という強い気持ちが芽生える時期なんです。でも、強い思いを持っているのに、それを伝える言葉がまだ育ちきっていません。お友達とおもちゃの取り合いになった際のこと。「貸して」と言えないもどかしさがあります。この時期は、どうしても気持ちが先に出てしまいがち。そのもどかしい思いが、つい「口が出る」という行動につながってしまいます。
これは、決して悪気があるわけではありません。何も言わずに噛んでしまうのでビックリします。でも、相手を困らせようとしているのではなくて、言葉の代わりに、全身の力を使って、一生懸命に自分の意思を表現しています。
歯の生え始めによる口の中のむずがゆさ

また、0歳後半や1歳前半には、違った発達上の原因があります。それは、新しい乳歯が次々と生え始めることです。口の中がむずがゆくなるんです。その不快感を解消しようとして、目の前のおもちゃなどを噛むことがあります。何かを噛んで、感触を確かめる。自分の体の感覚を学んだりしているんです。このように、噛むという行為そのものは、乳幼児期のごく自然な発達の一部です。自立心が大きく育ち始める時期でもあります。
ですから、「噛む時期」だと割り切ることも、時には必要なのかもしれません。ただ、お友達を噛んでしまうと、お互いに痛い思いをしてしまいます。そこを大人が優しくサポートしながら、他の表現方法を教えていくことが大切です。
噛みつきは「愛情不足」や「しつけ」が原因ではない

本能的な行動であり、相手を困らせたいわけではない
「うちの子は噛む癖があるから…」「私の愛情が足りないのかな?」そんな風に自信を追い詰める必要はありません。噛みつきは、愛情不足が原因ではありません。しつけとも関係がないと考えられています。幼児期の子どもは、気持ちにブレーキをかける力がまだ育っていません。脳の発達の途中なので、衝動を抑えるのが難しい時期で、やりたいことが通らなかった時、体が先に反応してしまうだけなんです。ですので、噛んでしまう我が子を「悪い子」と決めつける必要は一切ありません。
親御さん自身が自分を責めすぎないことが大切

保育園でお友達を噛んでしまったと聞くと、心がギュッっとなりますよね。「お友達に痛い思いをさせてしまった…」と申し訳ない気持ちでいっぱいになります。噛んでしまった子や、保護者の方への謝罪の気持ちで、不安定になってしまうお母さんも見てきました。つい「やめなさい!」と怒鳴ってしまうこともありますし、先にお話ししたように幼児期にはある事ですから、どうぞ、ご自身を責めすぎるのはやめてください。
親が焦ってカッとなり、感情的に怒鳴るとどうなるか。子どもにはただ「恐怖心」だけが残ってしまいます。「自分はダメな子なんだ」と深く傷つくこともあります。自己肯定感を下げてしまう可能性もあります。まずは私たちが「ふう」と深呼吸をしましょう。大人が心を落ち着かせることが、自信を責めることを防ぐ、何よりも確実な予防になります。
お友達を噛んでしまった時の家庭での適切な対応

感情的に叱らず、落ち着いて冷静に伝える
もし、わが子が他の子に噛みついてしまったら。どのような対応がふさわしいでしょうか。まずは、感情的にならず、静かな声で接します。そして、噛まれた子の状態を確認しましょう。「ダメだよ、痛いよ」と、短い言葉を使います。お互いの目線を合わせて、冷静に伝えましょう。その方が伝わりやすくなります。大声で怒るよりも、淡々と伝える方が子どもの心に届きやすいのです。
噛みついてしまった気持ちを優しく代弁する

次に、なぜ噛みたくなったのかを考えます。「おもちゃ、使いたかったんだ!」「嫌だったんだね」と気持ちを代弁します。自分の葛藤を大人が言葉にしてくれる。それだけで、子どもはとても安心し、落ち着くことができます。その上で、頭ごなしに「ダメ!」と否定せずに伝えます。「『貸して』って言ってごらん」等の、“伝え方”を教えてあげてください。自分の思いを受け止めてもらう経験は、正しい伝え方を学ぶ良い機会になります。
保育園で行っている噛みつき予防の工夫と声かけ

保育士が大切にしている「適切なタイミングでの介入」
園内では、たくさんの子どもたちが集まります。そのため、お互いの欲求がぶつかりやすいです。トラブルが増えてしまう場面もあります。保育士さんたちが日々大切にしているのは、子どもたちをしっかりと観察すること。園を見ていると、噛みつきが起こりやすい特定の場面がわかってきます。例えば、1つのおもちゃをめぐるトラブル時や、遊びのスペースが隣り合わせ絵で近い等です。「噛むかもしれない」と気づいたら、すぐにそっと近くに寄り添います。未然に防ぐことがとても重要なんです。そして、口が開きそうになった瞬間に、保育士自身が体を割り込ませて防いでいます。
普段の行動を認めてあげるポジティブな声かけ

また、お部屋の中の環境作りにも工夫をします。段ボールや牛乳パックでパーテーションを作ったり、仕切りを使ったり、個々の落ち着くスペースを作ることもあります。さらに、普段できている当たり前の行動を、積極的に言葉にして褒めます。「順番を待ててかっこいいね」「お手てをキレイに洗えたね、ピカピカだね」このようなポジティブな声かけを増やします。笑顔での見守りには、高い効果があります。自分を認めてもらえる経験を積み重ねると、子どもの情緒はとても安定していきます。情緒が安定すれば、自然と噛みつきも減っていって、お友達と楽しく遊べるようになっていきます。
兄弟姉妹がいる家庭での噛みつき行動と親の関わり方

上の子・下の子それぞれのストレスや要求に寄り添う
ご家庭にきょうだいがいる場合。家の中で噛みつきが起こることもあります。下の子が生まれて、上の子が赤ちゃん返りをする。あるいは、お兄ちゃんやお姉ちゃんが日々我慢を重ねている。そうしてストレスがたまることもあります。そんな心の不安定さが、噛みつきにつながることがあるんです。特に、おもちゃを取られそうになって思わず噛んでしまう。そんな場面はよくあります。そんな時も、どちらか一方だけを責めるのはやめましょう。まずは、噛んだ子の「嫌だった」という思いを聞いてあげてください。そして、その気持ちを言葉で代弁してあげましょう。
物理的な距離を保ちつつ、安心感を与える
お家の中でのトラブルを防ぐために。一時的に遊ぶエリアを分ける工夫も有効です。簡易的な仕切りを使ってみてください。お互いが邪魔されずに遊べる空間を作ってあげましょう。また、忙しい毎日の中でも、1日20分ほど時間を作ってみてください。上の子だけ、下の子だけと、1対1で向き合う時間です。「あなたのことを、一番に大切に思っているよ」そのメッセージを行動で表すことが、子どもの安心感を深めます。ご家庭でうまく役割を分担しながら、家庭内での見守り環境を整えていきましょう。
改善が見られない時は?専門家に相談する目安

一人で抱え込まず、地域や専門機関のサポートを利用する
「何度言い聞かせても、全然おさまらない」「お友達に大怪我をさせたらどうしよう」そんな強い不安がある時は、一人で抱え込まないでください。噛みつきは、一般的には3〜4歳頃になると自然と落ち着きます。言葉の発達や自制心の成長とともに、少しずつ減っていきます。
ただ、子どもの気質が影響している場合もあります。入園や引っ越しなど、環境の急激な変化が関係することもあります。大きな変化に対して、不安な思いを感じている状態かもしれません。現在のママやパパのストレスが限界を越えそうな時。すぐに誰かを頼ってください。一番身近な相談先として、保育園はいつでもご相談いただけますのでお気軽にお声がけください。
また、地域の子育て支援センターや保健師さんもいます。かかりつけの小児科医への相談もおすすめします。専門家のサポートを利用することで、自身の心が軽くなります。我が子に優しい笑顔で向き合えるようになります。
まとめ:焦らずに子どもの成長の歩みを見守りましょう

子どもの噛みつきについて、原因や優しい対応方法を見てきました。今日のコラムの要点を、最後にもう一度おさらいしてみましょう。
- 噛みつきは1〜2歳に多く、言葉が未熟な時期の自然な発達の一部
- しつけや愛情不足が原因ではないので、自分を責めなくて大丈夫
- 噛んだ時は感情的に叱らず、落ち着いて「ダメ、痛いよ」と冷静に伝える
- 子どもの嫌だった気持ちをしっかり受け止め、言葉で代弁してあげる
- 普段の行動を褒める声かけや、お部屋の環境の工夫が予防になる
- 心配な時は一人で抱え込まず、地域や保育園などの専門機関を頼りましょう
毎日の子育て、本当にお疲れさまです。「どうして噛むの?」と真剣に悩む姿。それは、わが子への深い愛情からくるものです。噛んだ子を悪者にせず、お互いの気持ちに寄り添いましょう。一人で抱え込まず、いつでも保育園や周りの人を頼ってください。
今日のコラムが、少しでも心の荷物を軽くしたり、新しい視点のヒントになればうれしいです。次回もぜひ読みに来てくださいね。
仁和会 理事長 松屋哲雄





